低身長症とは

お子さまが順調に成長しているかどうかは、保護者の方にとっては非常に気になるところでしょう。「ほかの子に比べて、背が低いことが目立ってきた」「以前よりも背が伸びなくなってきたようだ」など、誰かに相談したいと思われることもあると思います。

お子さまの低身長は、成長曲線を用いて判断します。成長曲線とは、多数の子供の身長・体重のデータを男女別に集め、年齢別にその平均値や標準偏差を現したものです。診断で用いるのは標準偏差曲線(SD曲線)で、平均からどの程度離れているかを評価します。この曲線に対し、お子さまの曲線を描いた時に-2.0SD以下の状態である場合、低身長と判断されます。

低身長(-2.0SD以下)のお子さまは、100人のうち、2~3人くらいの割合です。お子さまの成長スピードはそれぞれですが、その背後にホルモンの異常など、何らかの病気が隠れている可能性もあります。低身長症の各原因については、次の通りです。

個性による(病気ではない)低身長症について

個性による(病気ではない)低身長症イメージ

低身長のお子さまは、検査をしても異常が見つからないことが多いです。つまり、低身長はとくに病気ではなく、個性ということになります。その場合、家族性低身長や体質性低身長、また二次性徴がゆっくり進む思春期遅発(いわゆる晩熟)などが考えられます。

家族性低身長

各種検査の結果、低身長を引き起こす疾患がなく、両親また親のどちらかが低身長である場合、家族性の低身長であることが考えられます。身長は両親の身長の高さに類似することが多く、遺伝の要素が大きいと言われています。低身長で悩むお子さまのほとんどは遺伝的要素が強く、そのことを家族性低身長といいます。

なお、ご両親の身長から予測身長を出す計算式があります。

  • 男子予測身長=(父親の身長+母親の身長+13)/2
  • 女子予測身長=(父親の身長+母親の身長−13)/2

これはお子様の身長とご両親の身長の関係性の強さに着目して算出するものですが、身長の伸びにはほかにも様々な要因が絡んでいるため、予測身長は必ずしも正確ではありません。ただ、両親を含めて家族全員の体格が小さく、ほかの病気の疑いがない場合は、家族性低身長の可能性が高いと考えられます。

しかし、お子さまが極端な低身長で成長曲線からの逸脱が大きい場合は、ご両親が低身長であっても家族性低身長ではなく、ほかの病気である可能性が疑われますので、必要な検査を行う場合があります。

身長を伸ばす要素

身長が伸びる要素には、遺伝以外にも様々なものが組み合わさっています。たとえば身長が伸びるということは、骨が成長するということでもあります。そこで、骨の成長を促す要素を充実させることで、遺伝的に低身長になる可能性が高いお子さまでも身長が伸びるケースも多々あります。

たとえば、規則正しい生活習慣や適度な運動で身体を活性化させることが大切です。その中でもとくに、質の良い睡眠をとること、そして骨の成長に必要な栄養素をしっかり摂取することが重要であると考えられています。

睡眠について

成長ホルモンは、睡眠中に盛んに分泌されます。とくに眠りについた直後の深い眠りのときに最も盛んに分泌されるとされているため、深い眠りに入れることが重要です。深い眠りに入るためには、日中の活動が大きく関係しています。朝日を浴びてから14〜16時間後にはメラトニンという眠りのホルモンが分泌されるため、まずは朝日を浴びて、日中はしっかりと身体を動かして活動し、その時間に合わせて眠りに入れるようにしましょう。

またメラトニンは明るいと分泌されないため、寝る前は部屋を暗くしておくことようにしましょう。スマートフォンやタブレットから発光しているブルーライトは、入眠を妨げる可能性があるため、寝る前の使用は控えることが大切です。このようにお子さまが質の高い睡眠をとれるよう、寝る前の習慣を見直すなど、サポートしてあげることが重要です。

栄養について

思春期が終わるまでの成長期において、身長を伸ばすためには食事は重要な要素になります。身長を伸ばすために必要な栄養素として、主に以下のようなものがあります。

カルシウム

骨の主な成分として身長を伸ばすためには必須の栄養素です。骨量が増加する成長期には、カルシウムを十分に摂る必要があります。カルシウムが多く含まれている食べ物としては、牛乳、チーズ、豆腐、干しエビ、ごま、ひじき、きな粉、ヨーグルトなどがあります。

ビタミン

ビタミン類の中でも特にビタミンDとビタミンKが骨の成長に欠かせない栄養素です。ビタミンDは日光に当たることで体内に生成されるため、積極的に外で遊ぶようにしましょう。ビタミンDが多く含まれている食べ物は、魚介類や卵、きのこ類で、カルシウムと一緒に摂取すると、カルシウムの吸収をサポートする働きもあります。ビタミンKは骨を丈夫にする役割をしています。ビタミンKが多く含まれている食べ物は、モロヘイヤや納豆、小松菜、ブロッコリー、わかめなどがあります。

アルギニン・シトルリン

これらはアミノ酸と呼ばれる栄養素で、体内のエネルギー産生を促すために必要なものです。主に脳下垂体を刺激し、成長ホルモンの分泌を促します。これらが多く含まれている食べ物は、うなぎやにんにくなどがあります。

これらのほかに、お子さまの成長に欠かせないのはタンパク質です。とくに卵や牛乳は身長を伸ばす効果が期待でき、卵を食べない人よりも約5%身長を優位に伸ばせるといった報告もあります。

色々な栄養素を述べましたが、ある一つが突出してもいけません。例えば、昔より「牛乳をよく飲む子は身長がよく伸びる」と言われ一理ありますが、牛乳ばかり飲んでお腹が膨れて食事が取りにくくなるようでは本末転倒です。バランスよく摂ることを意識しましょう。

運動について

適度な運動は、この成長ホルモンの分泌を促す作用があります。また運動をすることで、食欲が湧き、成長に必要な栄養素を摂取しやすくなります。さらに運動をして、しっかりと体を動かすことで、夜に熟睡しやすくなり、成長ホルモンが分泌されやすくなります。

お子さまの身長を伸ばすためには、具体的には、どのような運動が効果的なのか、という声をよく聞きますが、体のつくりには個人差がありますので、特定の競技や運動で、背が伸びるということはありません。大切なことは、お子さま自身が楽しくスポーツを続けられることです。身長のためにと、大人が特定のスポーツを無理にやらせるのは逆効果です。

また一般的に、小さい頃から極度に激しい運動をすると、骨に圧力をかけて、骨を伸びにくくしてしまうといわれています。また消耗しすぎて、食事を食べられずに寝てしまうようでは、子供の成長の妨げてしまいます。激しい運動は、ある程度、体がしっかりできてからにしたほうがよいでしょう。

病気による低身長症について

病気による低身長症イメージ

お子さまの低身長の原因の多くは、ご両親も背が低いなどの遺伝や体質によるもので、病気とは言えないものです。しかし、なかには成長ホルモンなどの身長を伸ばすホルモンの分泌不足や、染色体や骨の病気によって身長が伸びていない場合もあります。また、小さく生まれて、その後の身長があまり伸びないというケースもあります。これらの病気はそれほど多くありませんが、中には治療可能なものがあり、その場合、低身長(成長障害)については適切な治療で改善できる可能性もあります。

低身長症の原因となるものとしては、以下のような疾患が考えられます。

ホルモンの異常によるもの
成長ホルモン、甲状腺ホルモンの分泌不足など
染色体の異常によるもの
ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、ヌーナン症候群など
小さく生まれたことに関係するもの
SGA(Small-for-Gestational Age)性低身長症など
骨や軟骨の異常によるもの
軟骨異栄養症(軟骨無形成症、軟骨低形成症)など
心臓・肝臓・腎臓など主要臓器の異常によるもの
小児慢性腎不全など
環境によるもの(心理社会的原因)
愛情遮断症候群

低身長症の治療法について

ホルモン異常

成長ホルモンは脳の下垂体というところで作られますが、ここが何らかの障害を受けると、成長ホルモンが分泌されなくなり身長の伸びが悪くなります。また甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモンが分泌不足を起こしても、身長の伸びが悪くなることがあります。こうしたホルモン不足に関しては、成長ホルモンや甲状腺ホルモンを補う治療によって低身長を改善できることがあります。

ターナー症候群

染色体の異常では、2本あるX染色体が一本しかなかったり、一部が欠けていたりすることで起こるターナー症候群は、女児の2000人に一人くらいの割合でみられるもので、低身長のほか卵巣の機能低下により思春期がみられず、心臓病や難聴などの合併症が起こる場合があります。低身長に関しては成長ホルモン治療、卵巣の発育の問題に関しては女性ホルモン治療を行います。

プラダー・ウィリー症候群、ヌーナン症候群

またプラダー・ウィリー症候群は15番染色体の変化による病気です。低身長や性腺の発育の問題のほか、肥満や発達障害などの症状もあります。ヌーナン症候群は特定の遺伝子の変化が原因となり、特徴的な外観や低身長や思春期遅発や心疾患を特徴とする疾患です。これらに関しても、低身長に対しては成長ホルモン治療を行います。

SGA(Small-for-Gestational Age)性低身長症

妊娠週数に対して推定される身長・体重よりも小さく生まれた場合、その後も低身長が長引いている場合もあります。多くは3歳までに追いつきますが、追い付かない場合はSGA(Small-for-Gestational Age)性低身長症と考えられ、一定の条件を満たす場合には成長ホルモン治療を行うことがあります。

軟骨異栄養症

軟骨異栄養症(軟骨無形成症、軟骨低形成症)は遺伝が原因で骨や軟骨に異常があるもので、一部の骨が伸びにくく、胴と比べて手足が短いなど体型がアンバランスになります。成長ホルモンを補充する治療や、場合によっては整形外科での骨延長術などを行います。軟骨無形成症では軟骨の成長を促進する治療を行うこともあります。

主要臓器の異常

心臓、肝臓、腎臓、消化器などの主要な臓器に何らかの疾患があると、成長に必要な栄養を十分に取り込むことができないなどにより身長が伸びにくくなります。その場合、それぞれの疾患の治療を行うことにより臓器の状態が改善されれば、身長の伸びにつながることもあります。低身長の検査でかくれていた臓器の病気がみつかることも少なくありません。たとえば腎臓のはたらきが低下する“小児慢性腎不全”は低身長につながることがあり、腎機能や身長が規定の値を下回る場合は成長ホルモン治療を行います

愛情遮断症候群

周囲の愛情を感じながら過ごすことも成長には大切で、心理的ストレスを感じる環境に置かれると成長に遅れが出ることがあります。これを愛情遮断症候群といいます。愛情遮断症候群の治療は、対象のお子さまに対して、適切な愛情、栄養、養育環境を与えることが重要ですが、養育者自身の精神状態が不安定である(育児ノイローゼなど)場合が関係していることもあるため、子育てを一人で抱え込まず、親戚や友人、地域の保健所や子育てサークルなどの協力を得ていくことも大切です。

なかさここども成長クリニック
院長
中迫正祥
診療科目
小児一般(乳幼児健診・予防接種・風邪など)/小児内分泌(低身長症・思春期早発症)/起立性調節障害
住所
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